#HOTEL 03 ~妄想デート~

夏も終わりに差しかかり、時折吹く風は秋の気配を含みだした。

彼女から連絡をもらったのは、そんな夏の終わりとも秋の始まりともつかない日だった。

予定を聞くと、「いつでもいいよ。主婦で暇してるから」と返してきた。

そう、彼女は人妻である。

結婚前の彼女は職業モデルとして活躍していた。私と出会ったのもその頃だ。

カメラにレンズを取り付けながら、その後どう?とそれとなく結婚生活の話に水を向けると、

「うん、よくしてもらってるよ。なんの不満もない」といって微笑んだ。

たしか、風のうわさで誰もが羨むようなハイスペックな男性と結婚したと聞いた。

幸せそうでよかった、と安心して撮影を開始しようとカメラを向けたその時、

「ただ...」

「不満がないのが不満かな」と彼女がぽつりと呟いた。

結婚前、彼女とは割と頻繁に会っていた。

それは撮影という名の逢瀬だった。

彼女は性欲に忠実な生き方をする。

そしてそれは結婚した今でも変わらないようだ。いや、むしろ

記憶をたどるように、肌をなぞる。かつてよく交わった体だ。

彼女が支配されることを望むことも知っている。

そしてベッド以外で燃えることも。

「今の私って籠の中の鳥みたいなんだよね」

立ったままスカートをたくし上げられている彼女の口からそんな言葉が漏れる。

彼女はその美貌を生かして自分にとって必要な、何不自由ない生活をさせてくれる男性を選んだはずだ。

自分を「飼う」ことができる能力のある男を。

不満はないんだけど、と再び繰り返しながらも、でも時々自分が自分じゃなくなっていく感じがすると言う。

そして、「こういうことしてる方が、本当の私って感じがする」と言いながら私をベッドへと誘う。

満たされていても、いや何の不満もない生活だからこそ、刺激という名の甘い疼きを求めてしまう。

女には甘いものと同じレベルで秘密が必要なのかもしれない。

しかし、その「秘密」は彼女だけの物である。

完璧な妻というフルコースに必要な仕上げのデザートのようなものかもしれない。

「秘密」を持つことによって彼女は籠の中の鳥であっても、自分自身を取り戻すことができるのだ。

登りつめて囀るこの声を彼女の夫もまた同じように聞いているのだろうか。

先にベッドから起き上がり手慣れた様子で身支度を整える彼女をぼんやりと見る。

一瞬前まで私の前で「女」であった彼女はいつの間にか「人妻」の顔へと戻っている。

きっと帰りに成城石井にでも寄って何食わぬ顔で夕飯の買い物をするのだろう。

女にとって秘密は、買い物のついでにかごに入れるデザートのようなものだ。

きっと今日のことも。

そうして彼女はひとつの秘密を抱えて、軽やかに何一つ不満のない生活へと戻っていった。

緩やかに飼い殺されるために。

Hotelデータ

アラン·ド 216

東京都渋谷区道玄坂2-20-19

平日3時間3900

 

【プロフィール】

 Photographer

アンダーグラウンドシーンと女性のエロを得意とするフォトグラファー。

雑誌やウェブを中心に活動中。

日本初のフェティッシュ雑誌『INFAMOUS MAGAZINE』のオフィシャルカメラマンを務めるほか、様々なカルチャーシーンを撮影。

それらをまとめたフォトガイド「アンダーグラウンドイベント東京」を芸術新聞社より出版。全国書店にて好評発売中。

「写真・ソーシャル・イベント」をキーワードに、さまざまなイベントや企業とコラボし撮影会や交流会などを企画、運営するPhoto’s Gateの代表でもある。

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