#HOTEL 04 ~妄想デート~

その日選んだホテルはSMプレイ用の部屋がある新宿のホテルだった。

拘束用の鎖があらかじめ備え付けられているその部屋に入るなり、彼女はいそいそと持参した拘束具を取り出し、ベッドに並べ始めた。

そして一通り並べ終えると振り返り、期待に満ちた目で私を見る。

彼女は自らの要望を口にしない。なぜなら彼女は「犬」として扱われたいのだから。

性癖はシナプスが形成される幼少のころに形成されると何かで読んだことがある。

彼女の幼少期に何があったのかはわからない。おそらく本人さえも自覚してはいないだろう。

けれど確かに彼女の中に蒔かれた種は性癖という形で表出している。

彼女には「ご主人様」がいる。

ご主人様の言いなりに、犬のように服従するのが彼女の喜びなのだ。

待てと言われたらじっと耐えて待つ、舐めろと言われたらあらん限りの忠誠を持って奉仕する、

そして他の男に抱かれてこいと言われればそれさえも喜んで受け入れるのだ。

天井の鎖に彼女をつないだ後、しばらくその姿を眺める。

そしてたまに思いついたように彼女の体に刺激を与える。

優しい痛みを。

ムチや蝋燭などで痛み与えることだけがSMではない。SMには精神的な支配と服従の関係が根底にある。

その証拠としての痛みの享受であり、完全服従の誓いなのだ。

愛されていると錯覚しそうになるほど優しく触れられた頬に、次の瞬間目の覚めるような平手打ちが放たれる。

愛情と劣情を彷徨う刺激に感情は振り切れるほど揺さぶられ、自分でもどうしてほしいのかよく分からなくなって泣きそうになる。

そして自らの意思を放棄して相手に委ねるという行為は、時にこちらの隠された嗜虐性を引きずり出す。

相手の性癖だと思って足を踏み入れた場所は、実は自分自身の闇へとつながっているのだ。

一度快楽のスイッチが入ると痛みは甘い痺れとして知覚される。

嬉しいような泣きたいような愛しい感情を持て余し、目の前の存在にすがることしかできない。

徐々に自分を手放していく感覚、犬ですらない何物でもない自分に堕ちてゆく快楽がそこにはある。

そして偏ったセックスには終わりがない。通常の射精やオーガズムは終了のサインにはならないからだ。

彼女の場合、ゴールは「気絶」であるという。

自らの意識を手放した瞬間が彼女にとっての絶頂なのである。

呼吸の自由すら奪われ、自分を手放す瞬間を待ち焦がれて朦朧を彷徨う。

自らの息遣いと鼓動と欲情の音しか聞こえない中、痛みを伴う甘い刺激が彼女の芯に挿入される。

全ての痛みと快楽が混ざりあって混沌のその先へと押し上げてゆく。

そして彼女は自らを手放す。自らの意志で。

何者でもない自分になれる瞬間。価値のないものとして扱われたい彼女の小さな願いがかなった瞬間だ。

Hotelデータ

遊楽膳 305(ソフトSMプレイルーム)

東京都新宿区歌舞伎町2-6-14

平日3時間5000

 

【プロフィール】

 Photographer

アンダーグラウンドシーンと女性のエロを得意とするフォトグラファー。

雑誌やウェブを中心に活動中。

日本初のフェティッシュ雑誌『INFAMOUS MAGAZINE』のオフィシャルカメラマンを務めるほか、様々なカルチャーシーンを撮影。

それらをまとめたフォトガイド「アンダーグラウンドイベント東京」を芸術新聞社より出版。全国書店にて好評発売中。

「写真・ソーシャル・イベント」をキーワードに、さまざまなイベントや企業とコラボし撮影会や交流会などを企画、運営するPhoto’s Gateの代表でもある。

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