#Hotel 06 妄想デート

待ち合わせに少し遅れてやってきた彼女に、第一声、

「ひさしぶり、幸せそうだね」と声をかけた。

それくらい、彼女は誰が見てもわかるくらい、幸せな空気を纏っていた。

 

最近彼氏と同棲を始めたことはSNSを通じて知っていた。

だからこそ彼女がこの誘いに応えたのが意外だったし、なぜなのか興味を持った。

 

近況を報告し合いながら(主に彼女の近況だが)円山町の一角のホテルに入る。

彼氏と上手くいっていて、最近変わった仕事も順調、何より「愛されている」と感じる日々だという。

部屋に入ると早速気になっていたことを聞いてみた。

 

通常、人は満たされない何かを埋めるために遊びの関係を求めがちだ。

ではなぜ、すべてがうまくいっている今、わざわざ自分のような遊び相手とセックスする必要があるのか。

 

「うーん、そうだねえ、幸せが怖いからかな?」

馬乗りになった状態で服を脱ぎながら彼女はぽつぽつと話し出した。

アーティストでもある彼女は、今までどちらかというと負の感情を原動力に作品を作ってきた。

まるで親に褒められたい子供のように、作品を通して自分はここにいると叫び続けてきたのだ。

 

本来親から無条件に注がれるはずの愛情を受け取り損ねた子どもは、持っている愛情の量が圧倒的に少ない。

なけなしの愛情を生きるために自分に与えるだけで精一杯なのだ。

当然人への与え方も知らなければ、受け取り方も分からない。

その分、簡単に体の関係に陥りやすい。

価値のない自分が人に提供できるものは、女である自分の体だけだと思うからだ。

 

彼に愛されていると感じれば感じるほど、どうしていいかわからなくなると彼女は言う。

こんな自分でいいのか、自分は彼に愛されるに値する人間なのか、幸せになってもいいのだろうかと。

 

愛情の介在しないセックスは楽だ。

お互いに欲望をぶつけ合い、快楽のみに身をゆだねればいい。

愛情などという曖昧なものを持ち込むからよく分からなくなる。

そもそも愛された記憶などほとんどないというのに。

 

それでも、彼女はいつだって屈託のない笑顔で笑う。

今を全力で楽しむしかないんだとまるで自分に言い聞かせるように何度も口にする。

そのためならば少しの背徳感や罪の意識などとるに足らないことなのだろう。

彼と、そして自分自身のこれからの幸せのために。

 

今日のことは彼氏には話さず、自分の中だけにとどめておくという。

そうやって自ら自分の心に影を産み出す。

光があるから影があるのではない。

暗闇の中で心の底から光を求め、それが生きていく原動力となる。

そういう風にしか生きられない人間もいるのだ。

慣れない足取りで光の中へ戻っていく後姿を見送りながら、彼女のこれからの幸せを願った。

 

 

Hotelデータ

 

HOTEL CASANOVA 401

東京都渋谷区円山町19-9

平日2時間3240

 

 

【プロフィール】

 Photographer

アンダーグラウンドシーンと女性のエロを得意とするフォトグラファー。

雑誌やウェブを中心に活動中。

日本初のフェティッシュ雑誌『INFAMOUS MAGAZINE』のオフィシャルカメラマンを務めるほか、様々なカルチャーシーンを撮影。

それらをまとめたフォトガイド「アンダーグラウンドイベント東京」を芸術新聞社より出版。全国書店にて好評発売中。

「写真・ソーシャル・イベント」をキーワードに、さまざまなイベントや企業とコラボし撮影会や交流会などを企画、運営するPhoto’s Gateの代表でもある。

オフィシャルサイト:https://ayako-fukusako.jimdo.com/

Facebookhttps://www.facebook.com/ayakofukusako

twitterhttps://twitter.com/ayako2935

Instagramhttps://www.instagram.com/ayako_fukusako/?hl=ja