#Hotel 09 妄想デート

平日の昼下がり、大久保のドンキホーテの前は韓流の店を冷やかす若者でそこそこ賑わっていた。

店の前では大きな水槽の中で凶悪な顔をしたウツボが気持ちよさそうにまどろんでいる。

海のギャングと呼ばれているのはウツボだったかシャチだったか。。。

水槽を眺めながらそんなことをぼんやり考えていると

やってきた彼女に肩をたたかれた。

 

振り向くと久しぶりに会う彼女の顔があった。

気取らない笑顔とざっくばらんな話し方からは想像しがたいが、彼女の職業は「女王様」である。

 

ドンキから歩いてすぐの昔よく利用したホテルに入る。

名前は同じだったが改装されてきれいになっていた。

時の流れを感じつつ、「女王様」になって何年たった?と聞くと「7年」と彼女は答えた。

女王様界では中堅といったところか。

相手と一つの世界を共有して、一緒にその世界で遊ぶ快感はやめられないのだと彼女は言った。

 

しかし彼女の「女王様」あくまでも仕事である。

女王様の素顔とはいったいどのようなものだろうか。

「プライベートはSなの?Mなの?」

おそらくこの仕事をしていればいやになるほど聞かれるであろう愚問を、昔なじみの気安さで投げかけてみた。

「よく聞かれるでしょ?」という言い訳とともに。

すると彼女は「どっちでもあるかな。だって日常ってSMでしょ?」と軽く一笑して答えた。

 

彼女が言うには、

「プライベートだろうが仕事だろうが、世の中はみんなSMでできている。

相手との距離感を冷静に分析して、どうしてほしいのかを推測して行動する。

もしくは自分のしてほしいことを伝え、そのためにどうしたらよいのかを考えて動く。

高圧的に出て言うことを聞かせるのか、下手に出て上手く動かすのか。

みんなそうやって生きている、SMのプレイと変わらないよね」と。

なるほどと思いながら服を着たままの彼女に、シャワーの湯を浴びせる。

ストッキングのわずかな繊維が湯の熱を含んでいっそう纏わりついていく。

 

そして着衣のまま湯船に沈めると布が水圧で押し当てられ、緩やかに皮膚を拘束していく。

「まるでお湯に愛撫されているみたいだよ」と彼女は感想を漏らした。

 

「でもね、女王ではないただの女として自分を見てほしいっていう気持ちもやっぱりあるんだよ。時々ね」

一緒に湯船に浸かると、リラックスしたのか彼女が独り言のように呟いた。

布越しに彼女の肌を感じながら、せめて一緒にいる間は彼女の望みかなうようにと願った。

 

彼女が普段女王様としてどんな顔をしてどんなプレイをしているのか、私は知らない。

ただ、私の前で彼女はSでもMでもなく、ただ欲望に忠実な「女」だった。

 

「人生はSMだよ」

 

彼女がぽつりと言ったその一言が頭に残る。

日常のどんな出来事もSMに例えて「これはこういうプレイ」と割り切れば、人生は少しだけ楽しくなるかもしれない。

そんなことを思いながら大久保のホテルを後にした。

 

Hotelデータ

ホテル モナコ #301

東京都新宿区百人町1-4-25

平日2時間 3500

 

【フォトグラファープロフィール】

 Photographer

アンダーグラウンドシーンと女性のエロを得意とするフォトグラファー。

雑誌やウェブを中心に活動中。

日本初のフェティッシュ雑誌『INFAMOUS MAGAZINE』のオフィシャルカメラマンを務めるほか、様々なカルチャーシーンを撮影。

それらをまとめたフォトガイド「アンダーグラウンドイベント東京」を芸術新聞社より出版。全国書店にて好評発売中。

「写真・ソーシャル・イベント」をキーワードに、さまざまなイベントや企業とコラボし撮影会や交流会などを企画、運営するPhoto’s Gateの代表でもある。

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