#Hotel 12 妄想デート

その身に傷をもつ者は幸せだ。

それが体の傷であっても心の傷であっても、それによってより生々しい生を感じられるからだ。

その日偶々選んだホテルはなぜか森を連想させる壁紙でまるで童話の世界に紛れ込んだかのようだった。

目隠しをしてほしいという彼女の希望は、悪い魔物に誘拐された主人公を思わせた。

「私、傷がありますよ?」

服を脱ごうと黒いニットに手をかけながら、彼女は思い出したように言った。

胸に縦に奔る痕跡。子供のころの手術の後だという。

自然と彼女の子どものころの話になった。それを聞きながら傷跡を指でなぞる。

傷は想いの痕跡だ。生きようとし、生かされようとした記憶。

だが、誰かが大切に愛しんだ女の身体はやがて森の魔物によって蹂躙される。

女は塞がることなく潤い続ける裂け目からいとも簡単に内部への侵入を許してしまう。

彼女はまるで深い森の中でひっそりと息をひそめて貪欲に食べられるのを待っているようにみえる。

しかしひとたび交わると女の体は柔らかく、押しつぶされながら形を変えじわじわと男を捕食する。

子どもの頃、少女は森に入ってはいけないと教わった。危ない動物がたくさんいるからと。

少女は親の言いつけをよく守り、森へは近づかなかった。

たとえ他の子どもたちが子供の好奇心で森の入り口まで行ってみようと誘っても、少女は頑なに森を拒んだ。

彼女は本能的に気づいていたのだ。森が自分を狂わすことを。

一度迷いこんだらその享楽にとりこまれてしまいそうなことを。

やがて少女は鬱蒼とした暗い森の中で魔物たちに蹂躙されるのを夢見るようになる。

そして大人になり、呪縛から解き放たれた時、とうとう禁止されていた森へと足を踏み入れてしまう。

都会という森にはありとあらゆる甘い実がなっている。

それは望めば簡単に手に入り、いともたやすく満たされる。

それでも彼女は思う。

自分はいつかこの森を出てゆくのだと。

まるでおとぎ話のハッピーエンドのように、誰かと手を取って、自分自身の想いを誰かに刻みに行くのだと。

なぜなら私には愛された記憶が刻まれている。

愛された記憶は消えない。どんなことがあっても。

彼女の傷にやさしく口づけると、彼女は誇らしげに眼を細めた。

Hotelデータ

ホテルYUKA #202 

東京都新宿区歌舞伎町2丁目4516

平日時間 3800

 

【フォトグラファープロフィール】

 Photographer

アンダーグラウンドシーンと女性のエロを得意とするフォトグラファー。

雑誌やウェブを中心に活動中。

日本初のフェティッシュ雑誌『INFAMOUS MAGAZINE』のオフィシャルカメラマンを務めるほか、様々なカルチャーシーンを撮影。

それらをまとめたフォトガイド「アンダーグラウンドイベント東京」を芸術新聞社より出版。全国書店にて好評発売中。

「写真・ソーシャル・イベント」をキーワードに、さまざまなイベントや企業とコラボし撮影会や交流会などを企画、運営するPhoto’s Gateの代表でもある。

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